旅先の起床は早い。
翌朝のやることを決めてさえいれば
普段の生活リズムを何時間でもずらせる。

彼女が風邪と持病でのろのろ準備していたので
出発予定時刻はずれたが急かすのは苦手だし
人の都合に引きずられるのは良いも悪いも
一人では味わえない部分なので自分を変に納得させバイクに跨った。

彼女は小学生のときに何度も読み返し
僕は大学生になって初めて手にとった『二十四の瞳』
こいつは小豆島が舞台だった。
これは偶然ではない。
壺井栄(『二十四の瞳』の作者)と尾崎放哉(俳人)を求めて来たからだ。

小豆島の東南に坂手というところがあって
そこは壺井栄に関する重要な土地だ。
随分観光客を狙った施設が多い。
その中で僕たちが足を運んだのは
岬の分教場・二十四の瞳館、二十四の瞳映画村の2ヶ所だった。
前者は後者と重なる部分があってそれほどのものでもないが
後者はなかなか面白かった。
おみやげ屋や食事処が多いのが観光地っぽくて鬱陶しいけど
「二十四の瞳」の映画が観られるし
映画のセットがそのまんま残っていて見学自由だし
壺井栄文学館で生原稿などの展示があって興味を深めてくれる。
文学好きとしてちょっとした発見があった。
壺井さんは戦前生まれの人間だったというのに
原稿を読んでみると歴史的仮名遣いをしていなかった。
珍しい。
バスツアーを始めとして観光客は結構多かった。
でも90分以上の映画をクソ真面目に全部観たのは僕たちしかいなかった。
こんなところまで来て観なくてもいいという意見は分かるが
ここで観たかったのだ。

僕たちは食べ物の好みが非常によく似ている。
小豆島のテーマはうどんとソフトクリームだった。

うどんは2度食べたがそれほどおいしいものはなかった。
グルメな彼女だが四国生まれというのも相俟ってうどんに厳しいのだ。
HPに麺の食べ歩きコーナーを作っているが
おいしいものがなかったので更新するに至らなかった。

ソフトクリームはなんと4度食べた。
最初は「ミックス(なつかしソフト+黒ゴマソフト)」を食した。
なつかしソフトとは昔なつかしい味のバニラ風味だ。
読者の方は「アイスクリン」をご存知だろうか?
あれをもっとトロトロにしてバニラっぽくしたものだった。

次に「オリーブソフト」。
オリーブのつぶつぶ感がよろしくない。
オリーブが好きでもこれはちょっといただけなかった。
面白いけれど悪乗りして特産物を入れれば良いってものではない。
(小豆島はオリーブ栽培100年前後の歴史がある。確か三重県、鹿児島県、小豆島の三ヵ所で栽培にチャレンジしたのだが、小豆島しか成功しなかったために日本で唯一の成功例として生き残ったらしい)

次に「しょうゆソフト」。
小豆島にマルキンという有名な醤油メーカーがある。
「二十四の瞳」の映画のカメラに何度も映っていた。
そのマルキンの工場の脇で売られているそれを食べてみた。
意外にもおいしい。
醤油味だと言われなければ分からないくらいの味だ。
そのくせ醤油の香りは忠実に再現してある。
僕は特に好きではなかったが彼女は気に入った。

次に「佃煮ソフト」。
名前を耳にしただけで逃げたくなったがせっかくの小豆島にチャレンジした。
ソフトクリームを買う前にたくさんの佃煮の試食をしてみたところ
これが非常においしいものばかりだった。
これならまずくても本望だ、と意を決して食べた。
おいしい。
佃煮らしいところは佃煮で作ったハートの飾りくらいで
あとはソフトクリームに佃煮が物凄く小さくなって入っているくらい。
佃煮らしくはないがおいしいというのはズルイ。
佃煮で「えっ?」と意外性を売り出して味が無難だから効果倍増だ。
彼女は佃煮らしさをあまり出さずにおいしいからあまり評価しなかった。
僕はこういうせこいやり方が地方独特のせこさを表していて
人間っぽくていいと思った。


バイクでも走った。
寒霞渓という日本三大渓谷(で良かっただろうか?)へ向かった。
海抜0メートルから直線距離数キロで
いきなり600メートルちょっとまで上るんだから
小さい島のくせにちょっと生意気だ。
日本列島と富士山の関係に似ている。
気温はマイナスだったろうが構わずアップダウンするクネクネ道に合わせて
車体をしっかりバンクさせてひとつずつカーブを確実に曲がっていった。

小豆島88ヵ所で唯一参ったのがお寺の名前は忘れてしまったが最高最尊だと自称していた。
山の洞窟に本尊を祀り断崖絶壁に建物を配置し修行僧は鎖でそこをよじ登る。
僕のチャレンジは5M程度。
それ以上は命の危険があった。

太陽の丘というところにバイクを停めた。
ドライブインみたいな施設は倒産していた。
その上の丘にオリーブ神殿なるものがあり歩いて登ってみると
それはイザナギノミコト、イザナミノミコトを祀っていた。
炎はアテネのアクロポリスから運んできたらしいが既に消えていた。
なかなかすごい。
バイクに跨る前にドライブインの探検をしてみると
店の裏側にこんな小さな石碑があった。
「オリーブ王国建国」。
かなりひっそりと建っていた。
倒産しては国王も逃げ出すしかなかったのだろう。
彼は無念だったろうが廃墟が醸し出す雰囲気と
計画のくだらなさのギャップに笑いがこみ上げてきた。

結構な珍スポットだった。

冬の寒霞渓は寒々しかった。
やはり写真は紅葉のシーズンばかりだから
須らく紅葉を見に来るべきだと言われかねない。
閑散期好きの僕はこういった寂しい風景も悪くないと思う。
寒霞渓にある丘みたいな三笠山(▲650くらい)頂上まで登り
次のフェリーに乗って小豆島を離れることを決心した。
福田港まではひたすら下り。
小さな滝がいくつか凍っていた。
樹氷みたいに凍りついた植物もいくつかあった。

次回があれば寒霞渓だけでなく
星ヶ城跡の山(▲817)まで徒歩で歩いてみたい。

帰りのフェリーでも彼女は眠り僕はテレビのニュースを観ていた。
姫路から神戸までは60、70キロ程度で流した。
神戸の住吉でごはんを食べ体を温め人心地つくと
それから常時80キロ以上で車をどんどん抜かし2時間で京都の下宿まで帰った。
都市ではどんな大排気量の4輪でもなくオートバイが最速だ。

間もなく関西さえ離れるかもしれない。
今のうちに色々まわっておこうと思っている。

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走行距離1日目150キロ、2日目160キロ。
フェリーや観光で時間を使っているしこんなもんだろう。

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日にちを替えて続きを書くと文体が変わっていた。
文体は文章の命だというのは尤もだと思うが
文体にこだわりがないように見えるということ自体が
僕の文体の特徴かもしれない。

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