高野文子『黄色い本―ジャック・チボーという名の友人』 講談社
白水社の文庫クセジュを知っている方は
すぐに連想できるでしょうね、このマンガのタイトル。
アートな雰囲気の女性が大好きな高野文子。
このマンガを評して「ユリイカ」片手に読まなきゃ
理解できないと賛辞を贈る自称読書家や書店販売員。
どーも、この手の方々が好きになれないです。
こういうタイプはマンガの称揚と文学への不信をセットにしなきゃ
気が済まないタイプが非常に多いと思うんですけど、僕の偏見でしょうか。
どっちもいいもん読めば問題ないと思うんですけど。
表題作「黄色い本」は現実と空想の往還どころか、
現実に空想が入り込んでいる作品です。
これは技量のない者がやると
見るも無残な作品を作りがちですが、さすがは高野文子です。
空想ぎりぎりのところまでやっています。
全く不自然ではない。
こういう作品を読むと
素晴らしきマンガ文化が日本にあるんだなと安心できます。
「マヨネーズ」や「二の二の六」の主人公を安心して読み進められる一方、
何が起きるわけでもないのに怖くて疲れます。
でもちょっぴり楽しいんです。
寡作ながら時代のはやりすたりに流されない漫画を描き続ける、高野文子の4冊目の短編集。モダンで柔軟な絵柄と、ユーモラスかつ静謐(せいひつ)な描写と、高度で緻密な演出。これらが絶妙なバランスで同居する彼女の漫画の中には、さまざまな驚きと発見が隠されている。 たとえばロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々』…
白水社の文庫クセジュを知っている方は
すぐに連想できるでしょうね、このマンガのタイトル。
アートな雰囲気の女性が大好きな高野文子。
このマンガを評して「ユリイカ」片手に読まなきゃ
理解できないと賛辞を贈る自称読書家や書店販売員。
どーも、この手の方々が好きになれないです。
こういうタイプはマンガの称揚と文学への不信をセットにしなきゃ
気が済まないタイプが非常に多いと思うんですけど、僕の偏見でしょうか。
どっちもいいもん読めば問題ないと思うんですけど。
表題作「黄色い本」は現実と空想の往還どころか、
現実に空想が入り込んでいる作品です。
これは技量のない者がやると
見るも無残な作品を作りがちですが、さすがは高野文子です。
空想ぎりぎりのところまでやっています。
全く不自然ではない。
こういう作品を読むと
素晴らしきマンガ文化が日本にあるんだなと安心できます。
「マヨネーズ」や「二の二の六」の主人公を安心して読み進められる一方、
何が起きるわけでもないのに怖くて疲れます。
でもちょっぴり楽しいんです。
地下鉄の風に吹かれて
2005年2月6日 読書
南Q太『地下鉄の風に吹かれて』祥伝社
これは全編読むに堪えますね。
自伝的な作品であろうと連想できる「地下鉄の風に吹かれて」
「猫のたまご」は淡々と書かれているものの
結構エネルギー注いだんだろうなって思います。
主人公が女性で恋愛をめぐる話で、
主人公の卑近なことがらをめぐった内容のものが多いのですが、
著者が登場人物を優しく見守っているように感じます。
そういう温かみが好印象な短編集ですね。
強さと優しさがもらえる珠玉の14編!
生きてても
つらいことばっかりかもしれない
と思うようなことが続いて
へとへとな気分で
お風呂のお湯をためてる
いいことも少しはあった
それにすべてのことは
そのときは
そうするしかなかったように思える
あきらめてビールを飲んで眠ろう
17のとき
やわらかな心がほしいと
願ったことを時々思い出す
これは全編読むに堪えますね。
自伝的な作品であろうと連想できる「地下鉄の風に吹かれて」
「猫のたまご」は淡々と書かれているものの
結構エネルギー注いだんだろうなって思います。
主人公が女性で恋愛をめぐる話で、
主人公の卑近なことがらをめぐった内容のものが多いのですが、
著者が登場人物を優しく見守っているように感じます。
そういう温かみが好印象な短編集ですね。
冬野さほ『ポケットの中の君』集英社
うーん、分からん!
少女マンガにトライしている僕は何度呻いたことか。
最近読んだもので一番ワケが分からんと思ったのがこれです。
というかこれくらいしか特に呻くものは無かったのだけれど。
表題作「ポケットの中の君」は読むのが疲れました。
短編マンガでこれほど疲れたのは久しぶり。
7つの短編のうち
まともに自分にとって読むに値すると思ったのは以下の2編だけでした。
「have a flavor of sun」「Sunday juice」
うーん、分からん!
少女マンガにトライしている僕は何度呻いたことか。
最近読んだもので一番ワケが分からんと思ったのがこれです。
というかこれくらいしか特に呻くものは無かったのだけれど。
表題作「ポケットの中の君」は読むのが疲れました。
短編マンガでこれほど疲れたのは久しぶり。
7つの短編のうち
まともに自分にとって読むに値すると思ったのは以下の2編だけでした。
「have a flavor of sun」「Sunday juice」
思い出すことがブーム
2005年1月23日 読書
画像は写真集『キューティーハニーR.C.T. with MEGUMI』
永井豪『キューティーハニー』
永井さんって思いつきのマンガ家なんだろうな。
「デビルマン」が未だ代表作の彼だけど
完全に自分の世界に入り込んで描いてるもの。
「キューティーハニー」は連載当時、時代性の勝利だったんだろうけど、
現代マンガが発達した今ではあまり顧みられるべき作品でもないと思う。
1970年代当時のマンガではおっぱい丸出しで
他にもきわどく描いたマンガは衝撃的だった。
現在30代から40・50代の男性で
「キューティーハニー」でドキドキした記憶のある方は少なくないはずだ。
映画化された影響で読む人間はいるだろうけど
一瞬で消化されて残るものにはならないだろう。
それは本作が優れていないというわけではなくマンガが発展しすぎたからだ。
永井豪『キューティーハニー』
天才科学者如月博士が精魂を込めて作り上げた最高傑作は、抜群のプロポーションを持つアンドロイド「キューティーハニー」だった。七変化するハニーの体に隠された秘密を狙って、女だけの世界的犯罪結社「パンサークロー」が動き出した
永井さんって思いつきのマンガ家なんだろうな。
「デビルマン」が未だ代表作の彼だけど
完全に自分の世界に入り込んで描いてるもの。
「キューティーハニー」は連載当時、時代性の勝利だったんだろうけど、
現代マンガが発達した今ではあまり顧みられるべき作品でもないと思う。
1970年代当時のマンガではおっぱい丸出しで
他にもきわどく描いたマンガは衝撃的だった。
現在30代から40・50代の男性で
「キューティーハニー」でドキドキした記憶のある方は少なくないはずだ。
映画化された影響で読む人間はいるだろうけど
一瞬で消化されて残るものにはならないだろう。
それは本作が優れていないというわけではなくマンガが発展しすぎたからだ。
望月峯太郎『鮫肌男と桃尻女 新装版』 講談社
映画化されたマンガ。
望月さんのスピード感溢れる
サスペンスものの系譜。
ヤクザ・鮫肌と
偶然手を貸すこととなった桃尻の逃避行。
わけの分からない状態に主人公が陥って、
読者を問答無用に世界観に引きずり込む。
しかしこの手の作品は後から説明をしてくれるので親切。
最後にラストの謎を宿題にしてくれるのだから更に親切。
エンターテイメントにとって重要なポイントを押さえている。
映画化されたマンガ。
望月さんのスピード感溢れる
サスペンスものの系譜。
ヤクザ・鮫肌と
偶然手を貸すこととなった桃尻の逃避行。
わけの分からない状態に主人公が陥って、
読者を問答無用に世界観に引きずり込む。
しかしこの手の作品は後から説明をしてくれるので親切。
最後にラストの謎を宿題にしてくれるのだから更に親切。
エンターテイメントにとって重要なポイントを押さえている。
これ以上ありえないような傑作、現代風ヒロシマの話
2005年1月15日 読書
こうの史代『夕凪の街 桜の国』双葉社
広島市育ち、被爆者・戦死者を持つ僕です。
ちょっと耳を傾けてくれたなら幸甚です。
*********************************
「漫画アクション」に興味を持てずにいたが評判を聞き手に取った。
昨年に3回読んだ。
読んでいると心にしみ込んでくる。
読み終わると消化不良が起こる。
理想的なマンガだと思う。
消化不良という言い方は適切ではないかもしれないけれど、
それが引き起こす作用が心にずんと残る。
残ったものが読者に考えさせる。
「泣ける」かどうかはどちらでも良いことだろうが、
僕は「夕凪の街」で涙が出そうになった。
筆者が広島出身ということで広島弁の不自然さもなく、
広島弁でここまで「かわいい」という意味でも
魅力的に書いたマンガは他に類を見ない。
原爆使用の非人間性、原爆被害の悲惨さを見つめなくてはいけない。
過去の経験に鑑み、過ちを繰り返さないよう、
人々は様々な方法で「語る」という行為を行ってきた。
現代日本人に被爆の意識が極めて希薄という事実が証明するのは
義務教育における平和教育の挫折だ。
勿論努力はしてきた。
しかしながら、だ。
努力の方向性の違いだろう。
うまくいかなかった。
映像や資料、被爆者の証言・語り部、平和資料館、
原民喜・大田洋子・大江健三郎などの作家、たくさんの力が注がれてきた。
このマンガの登場で平和教育の歴史が変わる。
そういう派手なことは起きないと思う。
でもこのマンガをきっかけに
僕が挫折と言い切ってしまったものも活きてくるかもしれない。
相互作用が望めるかもしれない。
本作は静かなブームを継続している。
*********************************
原爆、ヒロシマと言うと事実の悲惨さから目を背ける人間が多い。
だからオブラートに包んで消化してください、
本作はそういう系譜にも当たらない。
かと言って「はだしのゲン」のような
死と喪失のリアリティを追求したものでもない。
「はだしのゲン」の評価を落とさないために補足しておくと
「麦のように生きるんじゃ」という言葉に代表されるように、
どんなに暗黒の力が広島を覆っても死や戦争を乗り越える力強さが裏にある。
ただ「はだしのゲン」を読むには
エネルギーや我慢が必要なタイプの人間が多いのは事実だ。
こうの史代のタッチは柔らかだ。
話も単純と言えば単純だ。
例えば死体はほんのちょっとしか出てこない。
出てきてもお人形さんと見間違えるくらいだ。
しかしそれをオブラートだと判断すると危ない。
「原爆を落とした人はわたしを見て
「やった!またひとり殺せた」とちゃんと思うてくれとる?」
昭和三十年。
灼熱の閃光が放たれた時から十年。
ヒロシマを舞台に、一人の女性の魂が
大きく大きく揺れた。
最もか弱き者たちにとって、
戦争とは何だったのか、
原爆とは何だったのか…
筆者渾身の問題作!
広島市育ち、被爆者・戦死者を持つ僕です。
ちょっと耳を傾けてくれたなら幸甚です。
*********************************
「漫画アクション」に興味を持てずにいたが評判を聞き手に取った。
昨年に3回読んだ。
読んでいると心にしみ込んでくる。
読み終わると消化不良が起こる。
理想的なマンガだと思う。
消化不良という言い方は適切ではないかもしれないけれど、
それが引き起こす作用が心にずんと残る。
残ったものが読者に考えさせる。
「泣ける」かどうかはどちらでも良いことだろうが、
僕は「夕凪の街」で涙が出そうになった。
筆者が広島出身ということで広島弁の不自然さもなく、
広島弁でここまで「かわいい」という意味でも
魅力的に書いたマンガは他に類を見ない。
原爆使用の非人間性、原爆被害の悲惨さを見つめなくてはいけない。
過去の経験に鑑み、過ちを繰り返さないよう、
人々は様々な方法で「語る」という行為を行ってきた。
現代日本人に被爆の意識が極めて希薄という事実が証明するのは
義務教育における平和教育の挫折だ。
勿論努力はしてきた。
しかしながら、だ。
努力の方向性の違いだろう。
うまくいかなかった。
映像や資料、被爆者の証言・語り部、平和資料館、
原民喜・大田洋子・大江健三郎などの作家、たくさんの力が注がれてきた。
このマンガの登場で平和教育の歴史が変わる。
そういう派手なことは起きないと思う。
でもこのマンガをきっかけに
僕が挫折と言い切ってしまったものも活きてくるかもしれない。
相互作用が望めるかもしれない。
本作は静かなブームを継続している。
*********************************
原爆、ヒロシマと言うと事実の悲惨さから目を背ける人間が多い。
だからオブラートに包んで消化してください、
本作はそういう系譜にも当たらない。
かと言って「はだしのゲン」のような
死と喪失のリアリティを追求したものでもない。
「はだしのゲン」の評価を落とさないために補足しておくと
「麦のように生きるんじゃ」という言葉に代表されるように、
どんなに暗黒の力が広島を覆っても死や戦争を乗り越える力強さが裏にある。
ただ「はだしのゲン」を読むには
エネルギーや我慢が必要なタイプの人間が多いのは事実だ。
こうの史代のタッチは柔らかだ。
話も単純と言えば単純だ。
例えば死体はほんのちょっとしか出てこない。
出てきてもお人形さんと見間違えるくらいだ。
しかしそれをオブラートだと判断すると危ない。
「原爆を落とした人はわたしを見て
「やった!またひとり殺せた」とちゃんと思うてくれとる?」
「寄生獣のマンガ家」から岩明均へ、原点
2005年1月12日 読書
岩明均『骨の音―傑作集』講談社
好きなマンガ家を挙げるとなると岩明均は必ず入る。
彼の作品が好きな理由は危険だから。
その危険はホラーとか実生活に現実味のない現実逃避気味の恐怖ではなく、
実生活に繋がる危険の臭いがする。
危ないものに近づかずに人生終えられるといいなという思いを抱きながらも
危ないものがもたらすものに惹かれざるを得ない。
彼の危なさは例えば『寄生獣』のように
ビジュアル的に分かりやすいものが多いが、
『風子のいる店』のようにビジュアル的に分かりにくいものもある。
本書『骨の音』は短編集だから作風は両者を含んでいる。
しかし作風に関係なく内なる冒険が多いので結局は一緒だろう。
この本に収録の「ゴミの海」と「未完」は、私がまだマンガを始めて間もない頃の作品で、残りの4作は比較的最近のものです。マンガの仕事を始めて5年になりますが、結構楽しかったです。マンガを描くというのは、仕事のようで趣味のようで競争のようで芸術のようで、勉強することも必要です。だから楽しいのかもしれません。これからも創意工夫する気持ちを忘れぬようがんばりたいと思います。
好きなマンガ家を挙げるとなると岩明均は必ず入る。
彼の作品が好きな理由は危険だから。
その危険はホラーとか実生活に現実味のない現実逃避気味の恐怖ではなく、
実生活に繋がる危険の臭いがする。
危ないものに近づかずに人生終えられるといいなという思いを抱きながらも
危ないものがもたらすものに惹かれざるを得ない。
彼の危なさは例えば『寄生獣』のように
ビジュアル的に分かりやすいものが多いが、
『風子のいる店』のようにビジュアル的に分かりにくいものもある。
本書『骨の音』は短編集だから作風は両者を含んでいる。
しかし作風に関係なく内なる冒険が多いので結局は一緒だろう。
とびっきりのガールズストーリー
2005年1月9日 読書
魚喃キリコ『strawberry shortcakes』祥伝社
なんかウケる理由分かるなー。
自分のくだらなさを自覚しつつもしょーもないプライドがあったりで、
そのくせちょっと夢見がちな人々。
そんな彼らも「自分探し」がないってことにやっと気付いて、
喪失や倦怠と付き合っていく。
仄暗い色彩と雰囲気を湛えながら読者を慰め、励まし、魅了する。
優れた現代マンガだ。
イラストレーター塔子に切なくなり、
ホテトル嬢「秋代」に惚れ、ちひろに怒りを感じる。
ちひろみたいな女多いけど僕は大嫌い。
乱暴を承知で言ってやる。
ああいう女、ぶん殴りたい。
このマンガ身近な存在では弟と彼女が持っている。
近年―って言っても5年や10年じゃないけど、
女性マンガ家の作品を読んでいない奴は
文学や哲学を語ってはいけないことになっているので
読んだってわけじゃないけど今回はアタリだったな。
以前読んだ萩尾望都や岡田史子はもう読みたくないくらい嫌いだけど。
こんなふうなあたしたちでも
ほんとはまるで苺のショートケーキみたいなのよ。
かわいく モロく 甘いのだ。
今に見てろよバカヤロー。
なんかウケる理由分かるなー。
自分のくだらなさを自覚しつつもしょーもないプライドがあったりで、
そのくせちょっと夢見がちな人々。
そんな彼らも「自分探し」がないってことにやっと気付いて、
喪失や倦怠と付き合っていく。
仄暗い色彩と雰囲気を湛えながら読者を慰め、励まし、魅了する。
優れた現代マンガだ。
イラストレーター塔子に切なくなり、
ホテトル嬢「秋代」に惚れ、ちひろに怒りを感じる。
ちひろみたいな女多いけど僕は大嫌い。
乱暴を承知で言ってやる。
ああいう女、ぶん殴りたい。
このマンガ身近な存在では弟と彼女が持っている。
近年―って言っても5年や10年じゃないけど、
女性マンガ家の作品を読んでいない奴は
文学や哲学を語ってはいけないことになっているので
読んだってわけじゃないけど今回はアタリだったな。
以前読んだ萩尾望都や岡田史子はもう読みたくないくらい嫌いだけど。
魚喃キリコ『blue』マガジンハウス
なんと表現したら良いか、
誰もが持っているものではない特別な「あの頃」の透明感のある魂の物語。
それの引き起こす行動は醜いし人を傷つけるし、
それは汚れているかもしれない。
ただ単純にアウラの宿った特別な時期だから切なくて過ぎ去るのが惜しい
―だからこそ美しく見える、そういった問題ではない。
高みから誰かに認めてもらった美しさではなく
省みて主観的にこそ美しく、なりふり構わない。
それは多くの痛みをもたらすと同時に甘美な思いを残しもする。
彼女たちは笑った。
小さな心は笑顔に色々な表情をさせた。
積もりに積もった繊細さがカタストロフィーとして涙に至る、
といったものでもない…。
濃い海の上に広がる空や
制服や 幼い私達の一生懸命な不器用さや
あの頃のそれ等が
もし色を持っていたとしたら
それはとても深い青色だったと思う。
なんと表現したら良いか、
誰もが持っているものではない特別な「あの頃」の透明感のある魂の物語。
それの引き起こす行動は醜いし人を傷つけるし、
それは汚れているかもしれない。
ただ単純にアウラの宿った特別な時期だから切なくて過ぎ去るのが惜しい
―だからこそ美しく見える、そういった問題ではない。
高みから誰かに認めてもらった美しさではなく
省みて主観的にこそ美しく、なりふり構わない。
それは多くの痛みをもたらすと同時に甘美な思いを残しもする。
彼女たちは笑った。
小さな心は笑顔に色々な表情をさせた。
積もりに積もった繊細さがカタストロフィーとして涙に至る、
といったものでもない…。
たまにはこんなものも
2004年12月9日 読書
山本文緒『ブルーもしくはブルー』角川文庫
女性の悲しみを引きずりながらもちょっぴりの喜びが残る。
女性性からは決して逃れられないし逃げていない。
それは堂々とした態度だととることもできなくはないが、
女性の枠を超えるものを提示しようとしたわけではなく、
かといって、女性性と戦った試みもないわけで成功もなければ失敗もない。
結局は日常の枠組みに戻っていくエンターテイメント小説の宿命だ。
しかしながら女性の感情教育を担い、
小説の筋もスリリングで、優れた小説だと言える。
解説者は格好良くテーマは愛だと断言してみせたがそれは誰にでも分かることで
本書に限って言えば家庭と女性の愛を書いた小説だろう。
コピー的には「万華鏡の魅力」云々って言った方が売れるだろうが。
広告代理店勤務のスマートな男と結婚し、東京で暮らす佐々木蒼子。六回目の結婚記念日は年下の恋人と旅行中……そんな蒼子が自分のそっくり〈蒼子B〉と出くわした。彼女は過去の記憶をすっかり共有し、昔の恋人河見と結婚して、真面目な主婦生活を送っていた。全く性格の違う蒼子Aと蒼子B。ある日、二人は入れ替わることを決意した!誰もが夢見る〈もうひとつの人生〉の苦悩と歓びを描いた切なくいとおしい恋愛ファンタジー。万華鏡のように美しい小説。解説・三橋暁
女性の悲しみを引きずりながらもちょっぴりの喜びが残る。
女性性からは決して逃れられないし逃げていない。
それは堂々とした態度だととることもできなくはないが、
女性の枠を超えるものを提示しようとしたわけではなく、
かといって、女性性と戦った試みもないわけで成功もなければ失敗もない。
結局は日常の枠組みに戻っていくエンターテイメント小説の宿命だ。
しかしながら女性の感情教育を担い、
小説の筋もスリリングで、優れた小説だと言える。
解説者は格好良くテーマは愛だと断言してみせたがそれは誰にでも分かることで
本書に限って言えば家庭と女性の愛を書いた小説だろう。
コピー的には「万華鏡の魅力」云々って言った方が売れるだろうが。
中山良昭『日本百名城 歴史と伝統を歩くガイドブック』朝日文庫
はっきり言ってしまうけど内容は大したことない。
でも実際に城へ行こうという気持ちを持たせるきっかけにはなるかもしれない。
そういう意味では見事に役割を果たしているだろう。
役割とは学術ではなく「いかにも」なガイドブックとしてである。
ありそうでなかった日本全国の「お城」のガイドブック。見逃せない名城100を厳選し、その見どころを徹底紹介。城の構造に秘められた築造者の知略、改築の経緯など、ウンチクも満載した「読んで楽しめる」異色の歴史案内。本書を鞄に忍ばせて、ちょっと変わった歴史めぐりをどうぞ
はっきり言ってしまうけど内容は大したことない。
でも実際に城へ行こうという気持ちを持たせるきっかけにはなるかもしれない。
そういう意味では見事に役割を果たしているだろう。
役割とは学術ではなく「いかにも」なガイドブックとしてである。
銀の滴降る降るまわりに…
2004年11月26日 読書
知里幸恵『アイヌ神謡集』岩波文庫
人間はどこから来たかってことに
いつの時代もどの民族も意識的であって
手段は違っても色々な表現をする。
(岩波文庫は画像がなかったから他のものを拝借した)
「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに」―詩才を惜しまれながらわずか19歳で世を去った知里幸恵。このアイヌの一少女が、アイヌ民族のあいだで口伝えに謡い継がれてきたユーカラの中から神謡13篇を選び、ローマ字で音を起こし、それに平易で洗練された日本語訳を付して編んだのが本書である。解説・金田一京介、知里真志保
人間はどこから来たかってことに
いつの時代もどの民族も意識的であって
手段は違っても色々な表現をする。
(岩波文庫は画像がなかったから他のものを拝借した)
三浦綾子『塩狩峠』新潮文庫
ひねくれた見方をしたら
筆者は『塩狩峠』で神の愛を賛美し
キリスト教を布教しているように思えなくもないが、
それと文学的価値は関係ないし、
例えば仏教徒が読んでも得るところはあるだろう。
悪くはない小説だ。
結納のため札幌に向かった鉄道職員永野信夫の乗った列車が、塩狩峠の頂上にさしかかった時、突然客車が離れ、暴走し始めた。声もなく恐怖に怯える乗客。信夫は飛びつくようにハンドブレーキに手をかけた……。明治末年、北海道旭川の塩狩峠で、自らの命を犠牲にして大勢の乗客の命を救った一青年の、愛と信仰に貫かれた生涯を描き、人間存在の意味を問う長編小説。解説・佐古純一郎
ひねくれた見方をしたら
筆者は『塩狩峠』で神の愛を賛美し
キリスト教を布教しているように思えなくもないが、
それと文学的価値は関係ないし、
例えば仏教徒が読んでも得るところはあるだろう。
悪くはない小説だ。
「極限状況」は便利な言葉だが
2004年11月22日 読書
島尾敏雄『魚雷艇学生』新潮文庫 1989/07
やはりこういう短編に川端賞が与えられなくてはならないよな。
大家が短編を書いたら
取り敢えず賞を与えなきゃってことでの川端賞とは価値が違う。
予備学生として魚雷艇の訓練を受け、のちに特攻志願が許されて震洋艇乗務に転じ、昭和19年11月、第18震洋特攻隊の指揮官として180余名の部下を引きつれ奄美諸島加計呂麻島の基地に向かう―。死の淵から奇跡の生還をとげた著者が、悪夢のような苛烈な体験をもとに、軍隊内部の極限状況を緊迫した筆に描く。野間文芸賞、川端康成文学賞を受賞した戦争文学の名作。解説・奥野健男
やはりこういう短編に川端賞が与えられなくてはならないよな。
大家が短編を書いたら
取り敢えず賞を与えなきゃってことでの川端賞とは価値が違う。
藤代冥砂『もう、家に帰ろう』ロッキングオン 2004/04
第一声、好きなことして食べていけるっていいよな、です。
好きなことしてっていうのは職業だけのことじゃなくて、
例えば藤代さんが妻の写真集を撮るというプライベートの楽しみが
そのまま食っていくことと職業的な楽しみにつながっていることです。
しかもこれ名前は忘れましたが、
何かの賞までもらっているんですよ、めちゃくちゃ妻を愛しています、
っていう気持ちを文章にも写真にも感じさせながら。
いやぁ、こりゃあ、純粋に羨ましい。
1999年8月29日
初めて彼女の写真を撮った
雑誌スプリングの撮影
富士山五合目
彼女のポラロイド690を借りた
まだ二人とも未来に何がおこるのか知らなかった
第一声、好きなことして食べていけるっていいよな、です。
好きなことしてっていうのは職業だけのことじゃなくて、
例えば藤代さんが妻の写真集を撮るというプライベートの楽しみが
そのまま食っていくことと職業的な楽しみにつながっていることです。
しかもこれ名前は忘れましたが、
何かの賞までもらっているんですよ、めちゃくちゃ妻を愛しています、
っていう気持ちを文章にも写真にも感じさせながら。
いやぁ、こりゃあ、純粋に羨ましい。
〔秘密メモ〕megさん
田中小実昌『ポロポロ』河出書房新社
いつの間に復刊してたんだー!
名作の評が高い「ポロポロ」が河出文庫の棚に並んでいてびっくりした。
ちくま文庫でもエッセイ集が出てたり
コミさんブーム再来なのかな?
「ポロポロ」に関して言うと
俺は絶版の中公文庫持ってるから復刊はどっちでもいいけどね。
田中小実昌『ポロポロ』河出書房新社
いつの間に復刊してたんだー!
名作の評が高い「ポロポロ」が河出文庫の棚に並んでいてびっくりした。
ちくま文庫でもエッセイ集が出てたり
コミさんブーム再来なのかな?
「ポロポロ」に関して言うと
俺は絶版の中公文庫持ってるから復刊はどっちでもいいけどね。
手塚治虫『鬼丸大将』全2巻 秋田書店
カバーの絵がいいね。
彫りの深い男が鎖に縛られ苦痛に満ちた顔をしている。
子どもだけに読ませるにはもったいないくらいに、
人間どもの俗物っぷりを描けている。
解説にも書いてあるから二番煎じみたいで言及したくはないんだけど
やっぱりこれがテーマだから触れずにはいられない。
「世の中には悪人も正義もないのよ。自分で自分を勝手にそう判断してるだけ……」
無駄に長いマンガを読むくらいより、
こういった漫画(手塚さんには漢字が相応しい)が有益だと思う。
カバーの絵がいいね。
彫りの深い男が鎖に縛られ苦痛に満ちた顔をしている。
子どもだけに読ませるにはもったいないくらいに、
人間どもの俗物っぷりを描けている。
解説にも書いてあるから二番煎じみたいで言及したくはないんだけど
やっぱりこれがテーマだから触れずにはいられない。
「世の中には悪人も正義もないのよ。自分で自分を勝手にそう判断してるだけ……」
無駄に長いマンガを読むくらいより、
こういった漫画(手塚さんには漢字が相応しい)が有益だと思う。
小さな○○にくよくよするな
2004年10月27日 読書
山崎さやか『はるか17』講談社
現在も連載中のマンガ『はるか17』。
僕にとって問答無用に楽しくて時間を忘れるほどのマンガはなかなかない。
このマンガは時間を忘れるほど面白い。
人生の過渡期にある女性が一番楽しめるんじゃないかな。
だから男性よりは女性に読んで欲しい。
敷かれたレールを走ってきたがそれじゃ物足りない女性、
世知辛い世の中にうんざりする女性、
就職活動を考えている女性なんかに読んで欲しい。
世間の厳しさ以上にいやらしい芸能界だけど、
それを勉強以外何にもできなかった女子大生が渡り歩いていく設定が面白い。
主人公はるかは何にもできない不器用な主人公なんだけど
無力だからこそできることがあってそれが希望のストーリーを作っている。
帯にMEGUMIがこう書いている。
MEGUMIのこと特に好きではないんだけど
グラビアやってきたタレントだけあって重要なことを言っているね。
「どんなに小さな胸でも」←これ重要。
所詮人の目に晒された職業は世間様には逆らえないんだよね。
「小さな胸」であることを許されないのを断言している。
個人がどんなに小さな胸でもいいじゃないかと言ったところで
それは絶対に許されないわけ。
芸能界の特質上、世間様ほど偉いものはないの。
そんな中にスタイルも良くないはるかが挑むわけだ。
でも彼女は自分でも知らない能力を発揮し試練を超えていく。
小さなことにくよくよしてるくらいなら本書を読んでおくれ。
宮前遥22歳。小さな芸能事務所・童夢企画にマネージャーとして入社。その後、社長・福原に説得され、一年間の期限付きで17歳のタレント・“はるか”として活動することになった。エッチな水着グラビアから始まったタレント活動も、映画のオーディションや地方CMの撮影など、少しずつではあるが、タレントとして“はるか”は前に進み始めた
現在も連載中のマンガ『はるか17』。
僕にとって問答無用に楽しくて時間を忘れるほどのマンガはなかなかない。
このマンガは時間を忘れるほど面白い。
人生の過渡期にある女性が一番楽しめるんじゃないかな。
だから男性よりは女性に読んで欲しい。
敷かれたレールを走ってきたがそれじゃ物足りない女性、
世知辛い世の中にうんざりする女性、
就職活動を考えている女性なんかに読んで欲しい。
世間の厳しさ以上にいやらしい芸能界だけど、
それを勉強以外何にもできなかった女子大生が渡り歩いていく設定が面白い。
主人公はるかは何にもできない不器用な主人公なんだけど
無力だからこそできることがあってそれが希望のストーリーを作っている。
帯にMEGUMIがこう書いている。
スタイリストの技にかかれば、どんなに小さな胸でも、かなり大きくできるんだから、胸が小さくても心配しないで!それよりも、はるかちゃんの魅力を次々と披露して、芸能界でのサクセスストーリーを歩んでほしい。応援してます!
MEGUMIのこと特に好きではないんだけど
グラビアやってきたタレントだけあって重要なことを言っているね。
「どんなに小さな胸でも」←これ重要。
所詮人の目に晒された職業は世間様には逆らえないんだよね。
「小さな胸」であることを許されないのを断言している。
個人がどんなに小さな胸でもいいじゃないかと言ったところで
それは絶対に許されないわけ。
芸能界の特質上、世間様ほど偉いものはないの。
そんな中にスタイルも良くないはるかが挑むわけだ。
でも彼女は自分でも知らない能力を発揮し試練を超えていく。
小さなことにくよくよしてるくらいなら本書を読んでおくれ。
無駄に長くないのは良い
2004年10月26日 読書
手塚治虫『時計仕掛けのりんご―The best 5 stories by Osamu Tezuka』秋田書店
うむぅ、脂の乗った時期の短編だけある。
「ペーター・キュルテンの記録」「時計仕掛けのりんご」
「カノン」「白い幻影」「最上殿始末」を収録しています。
今でもどの短編をとっても読むに堪えます。
手塚さんって巨匠って言われている割には小心者で、
同年代の活躍に異常と言えるほどの対抗心を持っていたり、
実は繊細な人物なんだよね。
その繊細さこそが彼を巨匠の座へ押し上げたんだけど。
何が繊細かというと他のマンガ家が妖怪ものや歴史もので人気を博すと
自分も描いてみなきゃ気が済まないってほどの行動が。
神経質なんだよね。
「最上殿始末」なんて良い短編だとは思うけれど、
つげ義春の忍者ものなんかの方が圧倒的に優れてる。
それは手塚さんの出来が悪いんじゃなくて
つげさんの出来が良すぎるだけだから別にいいや。
僕は手塚さん好きだよ。
繊細だからこそ好きだよ。
人間臭くて俗っぽくていいじゃない。
うむぅ、脂の乗った時期の短編だけある。
「ペーター・キュルテンの記録」「時計仕掛けのりんご」
「カノン」「白い幻影」「最上殿始末」を収録しています。
今でもどの短編をとっても読むに堪えます。
手塚さんって巨匠って言われている割には小心者で、
同年代の活躍に異常と言えるほどの対抗心を持っていたり、
実は繊細な人物なんだよね。
その繊細さこそが彼を巨匠の座へ押し上げたんだけど。
何が繊細かというと他のマンガ家が妖怪ものや歴史もので人気を博すと
自分も描いてみなきゃ気が済まないってほどの行動が。
神経質なんだよね。
「最上殿始末」なんて良い短編だとは思うけれど、
つげ義春の忍者ものなんかの方が圧倒的に優れてる。
それは手塚さんの出来が悪いんじゃなくて
つげさんの出来が良すぎるだけだから別にいいや。
僕は手塚さん好きだよ。
繊細だからこそ好きだよ。
人間臭くて俗っぽくていいじゃない。
少年よ、バカになれー
2004年10月21日 読書
玉越博幸『BOYS BE...second season』講談社
シチュエーションを手を替え品を替えでいじり続けている。
でもそれだけで基本的には同じ。
それにしてもささやかなエロシーンや下ネタはあまりのガキっぽさに笑える。
失笑より苦笑に近い。
人間ってバカだな、と思う次第。
バカを積み重ねれば大人になれるという逆説か。
「○○よ、バカになれー!」
猪木さんが叫んでいた言葉を少々変えて少年に贈りたい。
シチュエーションを手を替え品を替えでいじり続けている。
でもそれだけで基本的には同じ。
それにしてもささやかなエロシーンや下ネタはあまりのガキっぽさに笑える。
失笑より苦笑に近い。
人間ってバカだな、と思う次第。
バカを積み重ねれば大人になれるという逆説か。
「○○よ、バカになれー!」
猪木さんが叫んでいた言葉を少々変えて少年に贈りたい。